薬機法は医薬品的な効能効果を標ぼうしていれば医薬品とみなすこととしているが、その詳細な判断基準とは?
健康食品の薬機法の適用~医薬品該当性
健康食品は私たちが想定するような薬ではありません。
しかし、薬機法は医薬品的な効能効果を標ぼうしていれば医薬品とみなすという規制を採用しています(目的規制)。
そのため、健康食品について医薬品的な効能効果を標ぼうした結果医薬品とみなされた場合には、薬機法の規制が適用されることになります。
上記のロジックのうち、目的規制により医薬品とみなされることがあるというのは、もう少し詳細な判断基準がありますので、今回はその点をみていきます。
薬機法が定義する「医薬品」とは
薬機法が定義する医薬品は以下のとおりです。
第2条第1項 この法律で「医薬品」とは、次に掲げる物をいう。
一 日本薬局方に収められている物
二 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具等(※カッコ内省略)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)
三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。)
第1号の「日本薬局方」とは、医薬品の性状及び品質の適正を図るために厚生労働大臣が定めるもので、収載されている物は解釈上の例外を除き医薬品となります。
詳しく知りたい方はリンク先へ↓
問題は2号と3号です。
この点について、厚労省の見解と判例の見解をみていきます。
【厚労省】
第2条第1項第2号又は第3号に規定する医薬品に該当するか否かは、医薬品としての目的を有しているか、又は通常人が医薬品としての目的を有するものであると認識するかどうかにより判断することとなる。通常人が同項第2号又は第3号に掲げる目的を有するものであると認識するかどうかは、その物の成分本質(原材料)、形状(剤型、容器、包装、意匠等をいう。)及びその物に表示された使用目的・効能効果・用法用量並びに販売方法、販売の際の演述等を総合的に判断すべきものである。
※「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(46通知)別紙「医薬品の範囲に関する基準」
【判例】
医薬品とは、その物の成分、形状、名称、その物に表示された使用目的・効能効果・用法用量、販売方法、その際の演述・宣伝などを総合して、その物が通常人の理解において「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている」と認められる物をいい、これが客観的に薬理作用を有するものであるか否かを問わない
(最判昭和57年9月28日刑集36巻8号787頁)
以上のとおり、厚労省と判例とは、同様の見解であるといってよさそうです。
フローチャート
厚労省の通知には、さらに医薬品該当性の判断方法が詳しく述べられており、それをフローチャートにすると以下のとおりになります。

厚労省の通知によると上記のフローチャートになります。
上記のような判断過程をたどるものもあるでしょう(①)が、あくまで「総合的に判断」をするので、そうでない判断方法(総合評価)もある(②)と思われる点には注意が必要です。通常は②の判断方法で、①の判断方法が採用されるのはレアではないかと考えています。
裁判例の紹介
最後に、医薬品該当性について判断をした判例・裁判例を紹介しておきます。
判例①:つかれず粒事件
この事件では、裁判所は名称・形状と効能効果の標ぼうを総合して医薬品に当たると判断しています。つまり、厚労省が示すフローチャートをそのまま適用して判断したのではなく、総合的に判断して医薬品該当性を認めたケースです。
【昭和57年判例(つかれず粒事件)】
被告人Aが被告会社の業務に関し東京都知事の許可を受けずかつ法定の除外事由なくして販売した本件「つかれず」及び「つかれず粒」は、いずれもクエン酸又はクエン酸ナトリウムを主成分とする白色粉末(80グラムずつをビニール袋に入れたもの)又は錠剤(300粒入りのビニール袋をさらに紙箱に入れたもの)であつて、その名称、形状が一般の医薬品に類似しているうえ、被告人らはこれを、高血圧、糖尿病、低血圧、貧血、リユウマチ等に良く効く旨その効能効果を演述・宣伝して販売したというのであるから、たとえその主成分が、一般に食品として通用しているレモン酢や梅酢のそれと同一であって、人体に対し有益無害なものであるとしても、これらが通常人の理解において「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物」であると認められることは明らかであり、これらを薬事法二条一項二号にいう医薬品にあたるとした原判断は、正当である。
(最判昭和57年9月28日刑集36巻8号787頁)
判例②:リポクレイン偽薬事件
次に、医薬品的な形状のみから医薬品であると判断した裁判例を紹介します。
簡単に事例を紹介すると、本件商品は、市販されている血圧降下剤「リポクレイン錠」の偽物を製造し、医薬品の無許可製造の罪に問われた事案で、本件錠剤に含まれる原料それ自体は無害かつ無益のものでしたが、医薬品に特有の包装方式であるPTP包装(片面が透明な塩化ビニールで、他の片面をアルミ箔でふたをしたものでポケットを押すとアルミ箔が破れて錠剤が飛び出すもの)を施されていました。もっとも本件商品には「リポクレイン錠」である旨の表示や効能書の添付等がなく、このような場合でも薬事法2条1項の医薬品に該当するか否かが争われた事案です。
【昭和54年判例(リポクレイン偽薬事件)】
いわゆるPTP包装の施された本件糖衣錠剤は、その外観、形状等に照らすと、いまだ薬事法二条一項二号に該当するとは断定し難いが、血圧降下剤「リポクレイン錠」であるとの表示等をまつまでもなく、同条一項二号または三号の医薬品にあたると認めるには十分である
(最決昭和54年12月17日刑集33巻7号939頁)
この事件では、効能効果の標ぼうや用法用量の医薬品的記載はなく、商品の形状のみから医薬品該当性を認めたというケースです。
このケースのように、厚労省が示しているフローチャートをそのまま適用して医薬品に該当すると判断されることもある点は、レアケースとは思われるものの留意しておきたいところです。
※なお、リポクレイン偽薬事件で、「いまだ薬事法二条一項二号に該当するとは断定し難いが」とある部分は、原判決が薬事法(旧名称)2条1項2号の医薬品に該当すると判断したのを最高裁は否定して、同項2号又は3号の医薬品にあたると判断するために説示したものとなります。
まとめ
✓健康食品について医薬品的な効能効果を標ぼうすると医薬品とみなされる
✓もっとも、医薬品的な効能効果を標ぼうしていない場合でも、医薬品的な形状や用法用量である場合には医薬品とみなされる場合がある
Comments