2023年1月13日、公正取引委員会が「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(案)に対する意見募集を開始した。通称は「グリーンガイドライン」。
昨年からESG/SDGsの取組みと独禁法の関係について述べる論考がちらほら出始めていたが(なお、私もビジネス法務の2023年1月号・2月号に「ESGへの取組みと独禁法(上・下)」という論考を出した)、公正取引委員会でも2022年10月から12月にかけて、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関するガイドライン検討会」を開催し有識者の意見を踏まえてガイドライン案を作成した。
※なお、公取委のガイドライン案は「グリーン社会実現の取組み」を、脱炭素の文脈に限定して使用している。
本ガイドライン案の基本的な考え方は、グリーン社会の実現に向けた事業者の取組みは原則として独禁法上問題とならない場合が多いが、例外として問題となる場合もある、というものである。
少しだけ敷衍すると、グリーン社会の実現に向けた事業者の取組みは新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果を持つものであり、温室効果ガス削減等の利益を一般消費者にもたらすことが期待されるものでもあるから、かかる事業者等の取組は基本的に独占禁止法上問題とならない場合が多い。しかしながら、事業者等の取組が、個々の事業者の価格・数量、顧客・販路、技術・設備等を制限することなどにより、事業者間の競争を制限する効果のみを持つ場合は、名目上はグリーン社会実現の取組みであっても独禁法上問題になる。また、事業者等の取組みが競争制限効果を持つ一方で競争促進効果も見込まれる場合は、当該取組みの目的の合理性及び手段の相当性を勘案して、当該取組みから生じる競争制限効果と競争促進効果を総合的に考慮し、当該取組みの独禁法上の問題の有無を判断する。
本ガイドラインでは、グリーン社会実現の取組みにあたって、第1に事業者間の共同の取組みが独禁法上問題となり得る場合、第2に取引先選定にかかる基準の設定等によりなされる「取引先事業者の事業活動に対する制限及び取引先の選択」が独禁法上問題となり得る場合、第3に取引先への行為が優越的地位の濫用にあたり得る場合、第4に共同研究開発や合弁設立などの企業結合が独禁法上問題なり得る場合を解説している。
バリューチェーン分析の観点からみると、ポイントとなるのは、上記第3の取引先への行為が優越的地位の濫用にあたるか、という点である。というのも、グローバル大企業は、自社のバリューチェーンを構成する企業に対して自社の脱炭素への取組みに対する協力を求め、それに従えない取引先に対して契約を解消することを行い始めているからである。
もっとも、本ガイドラインでは、この問題について踏み込んだ言及はなかった。そもそも、大企業が自社のグリーン社会実現のための取組みを取引先にも求めそれに従えない場合には契約を解消するということが優越的地位の濫用に当たるかという問題は、独禁法上明確に問題ありといえるケースではない。そのため、ガイドラインの性質上、この問題に言及がないのは致し方ない。しかし、この10年でこの問題は顕在化してくると思われるから、この問題についての独禁法上の整理は問われるようになるだろう。この点に関しては、前掲拙稿「ESGへの取組みと独禁法(上・下)」(ビジネス法務2023年1月号)に考えをまとめている。
また、ビジネスのグローバル化に伴い、日本企業が外国に本籍地のあるグローバル大企業のバリューチェーン傘下にあったり、反対に日本企業が外国企業をバリューチェーン下に置いていることもある。そのため、どの国の競争法の適用があるのか、反対に日本の独禁法がグローバル大企業に対して適用されるケースなどの線引きが今後は重要な論点になりうる。
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